★素晴らしき頂き物★
★鳴神左翼さんから頂きました★
  終わる夏の瞬き (カイ&リック)

「花火しようぜ」
カイの言うことはいつも突拍子がなくて、それだからリックは驚くより先に呆れてしまうのだった。
「……何でまた」
うろんげな表情のリックに向かってカイはにぃ、と子供のように笑ってみせる。
「小さいのでいいからさ、ふたりだけでやりたいの、花火」
馬鹿かお前、とつぶやきながら視線をはずすリックは、心の端でそんな言葉を望んでいた自分に気づき唇を噛む。
何を考えているのかわからない、それも自分より年下の男にいいように転がされている。それは何だか、言葉にするならもどかしいような悔しいような感覚だった。
リックの沈黙を肯定と受け取ったのか、カイは嬉々として手持ち花火を広げ始めた。
楽しげな様子のカイを見てわずかに微笑みながら、リックは海の方を見やる。彼方の空は朱に染まりかけた曖昧な色味で、昼と言うには遅く夜と言うには早い。
「こんな明るいうちからやったって楽しくないだろ」
「俺はリックがいるなら何だっていいんだよ」
カイの言葉にリックは少しだけ目を見開き、顔を見られないように背を向ける。
「……よくもまぁぬけぬけと」
「本当のことだって」
ほんと、と背中に降る声はとても優しい。
「リックは可愛いな」
「可愛くない! 何言ってるんだお前っ」
リックがむきになって言い返したとたん、カイの笑みがいたずらっぽいそれに変わる。
「はいはい、可愛い可愛い」
「だから可愛くないって」
リックがそれ以上文句を言えないように、カイは花火にさっさと火をつけてリックに手渡してしまう。
何か釈然としないものを感じながらも、リックはちらちらと輝く花火に視線を落とした。
隣ではカイが同じ花火を手に持って並んでいる。

カイに気づかれないように少し、ほんの少しだけリックはカイに近づいた。
カイが気づかないはずはないのだけど、カイはわざと気づかないふりをした。そんなカイの様子に、リックは気づかれなかったと思っているふりをする。
夏の終わりの生温い風が過ぎて、火の粉を柔らかく揺らしていく。
言葉もなく次から次へと花火に火をうつしていくカイを、リックも何を言うわけでもなく見つめていた。
日に焼けている割にはきれいな肌をしているな、と思う。頬に触れようと伸ばしかけた手をぐっと抑えた。

「なに?」
「あ? ……いや、別に」
自然とカイを見つめていた自分に気づき、慌てて手元に目をやるリック。カイがにやにや笑っているのがこの上なく悔しかったから、それ以上は何も言わなかった。
日が落ちるのは早いもので、群青に濡れた空はいつの間にか深い紺色へと顔色を変えていた。
やっぱ最後はこれだよな、とカイがリックに渡したのは線香花火だった。今にも消えてしまいそうな灯りが揺れる様を見ながら、リックはちらりとカイに視線を送る。
カイはどこか寂しげな表情で花火を見ていて、覚えずリックはどきりとした。

「カイ、……こっち向け」
「うん?」
カイがリックの方へ首を向けるのと、リックの唇がカイのそれに押し当てられるのはほぼ同時だった。
短い口づけは余韻を残すこともなく終わってしまう。
「……どしたの」
「俺にもよくわからん」

ちょうどその時、線香花火の最後の光が前触れもなく落ちた。

「終わったね、花火」
「そうだな」
言い知れない寂しさに駆られたリックがカイを見やると、カイも同じように考えていたらしく薄く笑った。
「帰ろっか」
薄暗がりの中、カイがリックへ手を差し出した。
どうかこの表情がカイに見えませんようにと、そんなことを考えながらリックはカイの手をとる。
カイが照れたように笑って、やがてふたりは歩きだした。

ゆるやかに、夏が秋を連れてきた日のことだった。


終わり。












▼ 管理人の一言

リクしたのが夏だったので、やっぱり夏はこの二人かなと思いまして(そんな理由)
夏と言っても残暑ですけど。
「残暑男」ですけど(電車男みたいに言うな)

やはりいいですなぁ、一夏の恋…(毎年やってくるけど)
夏しか会えないなんてロマンチックですな。むしろ七夕のような二人ですな。
うちの地元は七夕は旧暦ですが!!(関係ない)
夏場はカイリク祭りを開催したい勢いです(笑)
夏と言えば祭りだ!!裸祭りじゃ――!!裸でカイリク祭りじゃ――!!(間違ってますよ)